先月から募集していた『特許図面の作成に関するアンケート』の結果報告です。
まさかの大長編と化してきましたよ、ハァハァ…(疲労)。

(6)意識調査(つづき)

最後になりましたが、以下の三つの設問は、品質と時間のどちらを重視する傾向にあるかを問うものです。
一つ一つ、詳しく見ていきましょう。

(6-6-1)細部までこだわって丁寧に描きすぎるのは、時間や手間を無駄にすることになる

6-6-1

この(6-6-1)では、「細部までこだわって丁寧に描きすぎる」という、品質重視への「やや過度な」こだわりに対する反応を見てみました。
その結果、キャリア関係なくほぼ80%が、「当てはまる」「やや当てはまる」という回答となりました。
前回、図面は見た目が大切だという話をしたばかりですが、やはり特許図面は芸術作品ではありませんので、膨大な時間と手間を一図に注ぎ込めるわけではないのが現実です。
したがって、八割以上が、細部にこだわりすぎることを嫌う傾向があるようです。

特許図面作成者というものは、つねに時間と品質のバランスの狭間で、どの程度が「ちょうどいい具合」なのかを見極める必要があるんですよね。
でも、それって意外にサジ加減がむずかしい。
実際、どうでもいいところに(それがどうでもいいところだと気づかず)こだわって時間をかけすぎてしまうなんてことは、実務的にもありがちで、よく聞く話です。
(そして、そういうタイミングで明細書書きに「特許図面なんて適当でいいんだから、ささっと描いてくれる?」なんてイヤミを言われて、いろんな意味でカチンときたりして。)

これは前回のセミナーでもお話しましたが、クライアントも明細書書きも、発明や図面のポイントとなる部分はきっちり図面に描いてほしいと強くこだわりますが、ポイント以外は正直どうでも良いと考える人が多いです(程度の差は、もちろんあります)。
ですので、ポイントなのかポイント以外かを嗅ぎ分けるスキルというのは、特許図面作成者にとって非常に大切です。
丁寧に描く範囲をポイントのみに絞り込み、それ以外はある程度手を緩めることができるからです。
その結果、短時間で品質の良い特許図面を作成することが可能になるというわけです。
では、どうやって嗅ぎ分けるか…、なんて話をここで始めると長くなりますので、それはまたセミナーなどの折にお話ししようと思います。

(6-6-2)図面が少々雑になっても、短時間で仕上げることの方が特許の場合は大切だ

6-6-2

次の(6-6-2)では、「図面が少々雑でもいいから短時間で仕上げる」という、少し行きすぎた時短重視に対する反応をみました。
「少々雑」というのがポイントです。つまり、図面の品質を落としてでも時短を選ぶか、という話です。

『ベテラン+中堅』層は、過半数がこの「時短偏重主義」には賛同していません。
一方で、『若手+新人』層では、「どちらともいえない」を挟んで、賛同派と非賛同派がちょうど睨み合うかのように拮抗する結果となりました。
実は、前々回に結果を報告した(5)の何を重要視するかのアンケートでも、「短時間で描くこと」の『若手+新人』層の平均スコアは4.3であり、『ベテラン+中堅』層の平均スコア3.9を上回っています。
総合すると、『若手+新人』層では品質より時間短縮に重きを置く傾向が『ベテラン+中堅』層よりも強い、という結果になりました。
『若手+新人』層では、時間を短縮することへの肯定感(あるいは、時間をかけることへの拒否感、不安感)が強いのかもしれませんね。

このように、特許図面において「時間短縮」と「品質」、どちらを重視するかは悩ましい問題です。
費用対効果を考え、一定の品質も守りつつ時間というコストをどこまで費やすか、特許図面作成者はつねに計算しておかなくてはいけません。
一般的に、時短と品質はトレードオフの関係にあるといえます。
高品質にこだわればその分時間を犠牲にすることになり、逆に短時間で描こうと思えばある程度品質は後回しになるのが必然だからです。
では、キャリアが長くなるにつれ、時短重視傾向より品質重視傾向が強くなるのはなぜでしょうか。
それは、年々図面を描く速度が(様々な工夫と年月に比例する熟達によって)速くなり、時短を意識せずとも一定の速度以上で図面を描くスキルが身につくことが原因の一つと考えられます。
そして、かつては時間短縮に向けられていた意識が、図面の内容や表現などの品質向上の要素に向けられると同時に、描くのが速くなった分、それらのために時間を割けるようになるのでしょう。

なお、前回もちょっとお話しましたが、行きすぎた時短偏重主義を生むのは、基本的には環境が原因だとわたしは考えています。
とにかく数をこなさなければいけない環境では、品質など問うているヒマもなく次の図面を描かなくては間に合いません。
このような環境にいれば、「少々雑になってもいい」という考えにつながるのも不思議ではありません。
また、「特許図面なんて適当でいい、雑でいい」と考える人が多く集まる環境というのが、特許事務所をはじめとして実は結構あるんです。
こういった、図面の重要性について無理解な現場にいる場合、「少々雑になったところで誰にも指摘されないから、品質にこだわっても意味がない、だったら雑でいい、短時間で描く方がいい」という考え方につながります。
このような環境では、優秀な図面作成者も十把一絡げに扱われて正しい評価がなされず、品質の問われない流れ作業の連続でモチベーションを低下させてしまう可能性だってあります。
図面作成者にとっては、辛い環境といえるかもしれませんね…。

(6-6-4)図面を速く描くことも大切だが、品質とのバランスを考えて、ある程度時間をかけることもある

6-6-4

さーて、最後の設問です。
この設問ではですね、「時短と品質、どちらを重視するかはむずしい問題だけれど、結局はケースバイケースで考えるべきだし、要はバランスだよ!そうだろ、みんな!」と言いたかったわけです(だんだん雑)。
そんなわたしの魂の底からの叫びに対し、声の大小はあれど「いえー!」とレスポンスしてくれた方が全体の八割超。
うん、よし、満足!

と、次第にヤケクソ化してきた(疲れた)ところで、もうひとつ(まだ終わらなーい)。

(7)特許図面作成の効率化や、図面の品質向上のために行っている工夫

アンケートの最後に、「特許図面作成の効率化や、図面の品質向上のために行っている工夫」について記載していただきました。
この設問は自由回答です。最も多かったご回答はこちら。

(7-1)よく使用する図面要素の保存、登録
「電気回路記号、引き出し線等はシンボル登録して使用」
「引出し線、符号、矢印、破線、フローチャートはテンプレートに保存し、シンボル登録もしている」
「普段使用頻度の高いデータはライブラリー化し、作図者全員が使えるようにしている」など

このように、よく使う図面要素は、保存や登録をして使うという声が最も多かったです。
わたしも、十数年使っている年季の入ったライブラリーがありますよ〜。

(7-2)過去の案件の流用
「類似図面の使い回し」
「同じ様な図面は、前回のデータを流用して作業する」
「汎用品、機械要素等の図面は保存しておき、他の案件に流用する」など

同様に多かったのが、過去に描いた図面を流用するという回答でした。
ちなみに、わたしの最近のテーマは、いかにして過去案件をすばやく探せるようになるか、です。
長年描いていると、むかーし描いた似たような図面がどこにあるのか、埋もれてしまって見つけるのが大変になるんですよね。
サムネイル画像と整理番号のほか、キーワードなどを関連付けて検索できるような何かが(願わくば無料で)あったらいいですが…、どなたか良いアイディアがあったら教えてください。

(7-3)フリー素材の利用
「フリーで公開されているCADパーツデータ(2D、3D)をDLしておいて使用している」
「フリーの線画素材も利用する」

このように、フリー素材を利用するという声も上がりました。
ただし、商用OKかなど、利用規約は必ず厳重に確認しておく必要がありますので、そこは十分にお気をつけください。

(7-4)その他の少数回答
「製図ソフトのカスタマイズや、自作プログラムの利用により、効率的な描き方を工夫している」
「スクリプト、ショートカットを駆使し短時間で作図する」
「フリーソフトで印刷スピードアップ」
「最近は、材料毎のハッチングを積極的に使わない方向が有りますので、ハッチングの種類を用意している」
「複雑なCG画像などでの依頼があり、省略したトレースが可能な場合は、LEDトレース台で手書きトレースの後にCADで清書トレースした方が効率が良い場合があります」
「写真出願の際に綺麗なモノクロ/グレーに変換するためにPhotoshopでの色加工にこだわっている」
「所内ローカルルールであるIllustratorレイヤーを登録したファイルを開いて作図する」
「積極的に明細書担当とコミュニケーションをとり、彼らが依頼図で表せていない部分をフォローしたりより最適な表現に調整したりする」
「特許図面のイロハは文書化し、作図者全員に周知徹底する」
「下絵の時点で符号を全然つけないで依頼してくる明細書担当者の図面でも、過去の図面流用などで符号が残ってる場合はこっそり隠しレイヤーで符号と引き出し線をそのまま残しておいたりします」

と、現場ならではの様々な工夫をお寄せいただきました。
このような声をもっともっとたくさん収集したいものです。


と、いうわけで、これにてアンケートのご報告を終わります。
当初の想定に反して、おっそろしく長いアンケート報告となってしまいましたが、なかなかこれまで皆さんの考えを聞く機会はなかったため、個人的にとても興味深く、そして面白いアンケート調査になりました。
このアンケート結果から、何かひとつでも皆さまの心に残るもの、役立つもの、考えさせるものを残せたら、とてもうれしく思います。

それでは、また!