(ちょっとご報告が遅くなりましたが)
今年も特許図面ワークショップ(旧・特許図面作成講座)」が無事終了しました!

早いもので、わたしが講師を担当するこの講座も、今回でもう三回目。
毎回「機械系」の発明(=物の形状・構造などに関する発明)を作図の題材にしている本講座ですが、
今回もできるだけ面白い構造で、かつ身近な題材を見つけてきました。
百円ショップで(予算が…)。
(課題はとにかく百円ショップで探す、というのは“JAVCあるある”です

どうして機械系(=物の形状・構造などに関する発明)の発明なのかというと、ワークショップ中にもお話しましたが、機械系の発明の場合、図面の果たす役割が非常に大きいから。
物の形状や構造などを、言葉だけで余すことなく表現するのはとても難しく、どうしても図面の助けが重要となる場合が多いのです。
その分、機械系の特許図面はどちらかというと図面作成者にとって難易度が高めで、腕の見せ所でもありますね。

そこで前回までは、
機械系の発明のポイントを逃さずいかに特許図面化するか、というテーマでセミナーを開催してきました。
ただ、これだと「依頼された図面を、依頼された通りに描くこと」が普段のメイン業務となっている特許図面作成者の方には少々ハードルが高い面があり、前回も前々回も「何を描いていいのか分からない」と完全に手が止まってしまう方がチラホラといらっしゃいました。

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↑前回のテーマ「腕時計のばね棒」の3D断面
従来のばね棒との違いが明確になるように…という説明をしましたが、慣れていない方にはちょっと難易度の高いテーマでしたかね…(大汗)

そこで今回は、
『特許図面としてどう描くか』というのはどこかにポイーと置いといて、
課題の「生卵穴あけ器」の使い方や構造を、誰か(例えば、ゆで卵が大好きだけれど、日本語は一切分からないロシア人の友人)に、言葉を使わずに「図面」で説明してみよう!、という謎のテーマで作図実習を始めました。
その意図は、最後に説明します。

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↑3D・生卵穴あけ器
余談ですが、3D CADを使って特許図面を作成する場合は、細かいRや装飾的なデザイン等、発明と特に関係のない部分は省いてモデリングします。その方がモデリング速度が上がりますし、2Dに出力した後の作業も楽です。ここが意匠図面と違うところですね。

(1)まずは、「生卵穴あけ器」の構造を想像してみる

この生卵穴あけ器ですが、きれいなゆで卵を作るためのアイディア用品です。
ゆでる前に卵の殻にあらかじめ穴をあけておくことで、卵の殻が割れて白身が飛び出すことを防ぐとともに、殻を剥きやすくするものです。

前回までは、課題となる物の構造や従来との違いなどを長々と説明してから作図をお願いしていましたが、
今回は、用途と使い方を簡単に理解していただいた上で、まずは考える時間。
目の前にある課題がどのような構造なのか、想像してもらうことから始めました。

具体的には、
・卵を中央のボタンのような部分(可動部)に当てて押し下げると、可動部は下にさがり、可動部中央の穴から針が露出する(この針が、卵の殻に穴をあける)
・卵を取り除くと、可動部は上に押し戻されて元の状態に戻る
このような構成を実現するのは、いったいどんな構造か?ということを考えます。

ここで、正解(=実際の内部形状)にたどり着くことは、まったく重要ではありません(上記の構成を果たす構造というのはひとつではなく、様々な場合が考えられるからです)。
大切なのは、「どのような構造にすれば、この動きを達成できる?」ということを考察すること
そして、その考察を他人に伝達するために、うまく図面で表現すること、この二つです。

教室では、作図をしながら、
「この図だと、押しても下に下がらないかー」
「それじゃ可動部が宙に浮いてない?」
「やっぱり断面図を使わないとダメ…?」などなど、
さまざまな声が上がりました(おお、皆さん真剣に考えてくださってる!)。

さらに、
「コイルばねを使わない構造も考えてみる!」
「Oリングのような弾性部材を使うのってどう??」
などなど、ちょっと面白い考察も聞こえてきましたよ
バリエーションを考えるということは、一つの構成を多角的に考えるということですから、特許的には非常に重要な観点です。

ちなみに、このワークショップの準備をしている段階で、実はわたしも想像図を描いていました。

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↑発表する予定はなかったので、ラフすぎる図ですが(苦笑)。
これだと、針とコイルばねの周囲のガイドがないので、可動部が安定せずにグラグラしたりばねが座屈したりしそうですね…。

(2)そして、お待ちかね、分解の時間

課題の中身を想像して図面を描いているうちに、
「はやく分解したい」、「中身がすごく気になる」、という声がだんだん大きくなってきたので、満を持して分解スタート!
各所から上がる、「こんな風になっていたのか〜!」、「なるほど、こうきたか!」の声に、なぜかニヤリとしてしまう講師(なんでだろ)。
しかし、物をバラバラにするのって、どうしてこんなに楽しいんでしょうね。

分解した後は、「現物に合わせた作図」の開始です。
つまり、現物の使い方や構造などを、“ゆで卵大好きロシア人”に説明するための図面を描きます。
分解前に中の構造をじっくり想像して図を描いているため、実際の構造を見て、それぞれの部品のどの部分がどの部分と関わってどう動くのか、初見で描く場合よりもスムーズに理解できたのではないかなと思います。

一方で、目の前に現物があるのに分かりそうで分からない、上手く断面図を描けない、と言って疲れきってぐったりされている方もいらっしゃいましたが(笑)、
分解した現物から図面を起すのって、簡単そうで実は意外とむずかしいんですよね。
ここは、経験値がものを言う部分かもしれません。

それでも、最後まであきらめずにペンを動かして、最終的には皆さん素晴らしい図面を仕上げてくださいました。
分解することによって、「難易度が高すぎるので、 今回はなかったことにしていい」とお伝えしていたロック機構の仕組みや、安全を考慮した構造の様々な工夫などに気付き、皆さんから感嘆の声が上がっていたのがとても印象的でした。


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↑これはイラストレーターで仕上げた作図例の一部

なお、作図実習の冒頭に、特許図面のことはポイーと忘れてOKと言いましたが、
実習を通して作業したことは、結果として、「課題の構成、動作、作用を理解し」、「理解した内容を最適な図面で表現する」という、機械系の特許図面を描くに当たって最も重要といえるステップだったりする訳です。
ですから、最終的に仕上がった図面は、意外と特許図面らしい仕上がりになっていませんでしたか?

今回のワークショップを通して得た「課題の構成を自分の力で理解し、理解した内容を誰かに伝達するために図面を描く」という経験は、「明細書作成者が図面で表したい内容を理解し、最適な図面で表現する」ことに通じます。
少しずつでもこの感覚を掴んでいただければ、普段のお仕事で、確実に図面品質の向上を図ることができるのではないでしょうか。

ではでは最後に、いただいたアンケートの内容を紹介して終わります!

(1)セミナー全体について
・平均点4.8(「大変満足→5、満足→4、ふつう→3、不満→2、大変不満→1」とした場合の平均)

「図面を着想する段階から作業したことが新鮮でした。図面のルールの違いについて認識を深められました。」(図面制作会社・男性)
「線種の意味や斜視図の断面矢視の注意点等、普段気にせず描いていることの理解が深まりました。」(特許事務所・男性)
「面白い内容でしたが、長くて難しかったので、疲れました。」(その他企業・女性)

(2)講師について
・平均点4.9(同上)

「分かりやすい話し方で、聞きやすかったです。」(特許事務所・女性)
「技術力や説明力がすごいと思いました。質問のしやすさがあってとても助かりました。」(図面制作会社・男性)
「内容、ご説明、課題の選び、参考図面他、グレードアップされていて大変満足しています。」(メーカー・女性)

(3)作図課題について
・平均点4.9(同上)

「身近な物が題材でしたが、こんなにも複雑な形をしているのだと思いました。形を考えるだけで楽しかったです。」(フリーランス・女性)
「分解前に想像で描いてから、ヒントを見て二回目を描くのは勉強になった。」(特許事務所・女性)
「中身を考えたのが特に良かった。」(フリーランス・男性)

(4)その他、JAVCセミナーへのご要望など

「CADをメインに使っているので、ソフトに関係のないセミナーだとプレッシャーが少なく参加できるのでよかったです。」(特許事務所・女性)
「特許図面、イラストレーターに関するセミナーを開催いただければとても助かります。」(その他企業・女性)

という訳で、
今後のJAVCもよろしくお願いいたします!